単眼少女のいるところ

2015年の夏のもっとも暑かったころ、ろくに冷房の効かない幕張メッセのワンフェス会場に充満する甘酸っぱいオタク臭に意識を失いかけたころ、ひとつのブース前で動けなくなった。だれもいないテーブルの上に、美少女の被り物が置いてあるのだが、それは巨大な一つ目の美少女なのだ。

そこだけひんやりとした空気が流れるようでもある、一つ目小僧ならぬ一つ目小娘。作者の小沢団子(おざわ・だんご)さんは、被り物の一つ目がそのまま二つ目になったような、可愛らしい女の子だった。

頭部をすっかり覆う被り物と全身タイツ状の衣装(肌タイツ)による仮装を「着ぐるみ」と呼ぶ。衣装の中身(業界用語で「内蔵」)はふつう中年男性で、こうした着ぐるみに興じるのは、実は男性がほとんど。見かけが少女で「内蔵」も女性という例はとても珍しい。しかも一つ目小僧ならぬ巨大な一つ目美少女。小沢団子はそんな被り物の一つ目がそのまま二つ目になったような、可愛らしい単眼少女作家である。

小沢団子は1986年生まれ、川崎市の郊外で育ち、いまも両親とともに暮らしている。

うちは両親が共働きだったんです。それで幼稚園が終わるとそのままおばあちゃんちに行って、アニメを見てたのが始まりかな。『スレイヤーズ』とかの世代でした。そのころ幼稚園のお絵かき教室に行き始めたら楽しくなって、けっきょく小学校6年生まで通ってました。

なので「とりあえず美術がやれる学校を」と自分で探して、中学から女子美に入ったんです。そのままず~っと大学院まで進んだので、計12年間、女子美に通ってたことになります。大学に入ったのが2005年で、最初は工芸学科だったんですが、なにをやっても褒められなくて、合わないな~と(笑)。それで途中から洋画学科に転科したんです。

大学の3年くらいから、「頭足人」のシリーズを描くようになりました。実は私、胸が大きいんですけど、ずっとそれがイヤで胴体を描きたくなかったというか、頭と足だけでいいやって。そういう女の子ばかり描いてたんです。

そしたら翌年ぐらいかな、一瞬のアートバブルが訪れまして(笑)。ほら、GEISAIとかが注目されたころ。それで2008年には大阪の浜崎健立美術館というギャラリーでいきなり個展をやったり、GEISAIに出展したり、絵がちょっと売れるようになったりで、就職どころじゃなくなって・・・・・・そのまま、ここまで来ちゃった感じですね。

着ぐるみを始めたのは22~23歳くらいのころ。最初は二つ目、ふつうの女の子の着ぐるみです。大学院のころでしたが、友人から「こんなのあるんだよ」って着ぐるみを教えてもらって、私が描いてた頭足人とちょっと通じるものがあるかなって。それでやってみようと思ったんです。お面を作って、でもだれかほかのひとに着てもらうという発想はなかった。

着ぐるみは当時もいまも男性がほとんどで、女子だと5人くらいしかいませんし、胸も大きいのでモテるかと(笑)。でも、なにかのアニメとかの立体化じゃなくて、最初から自分で考えたオリジナルだったので、ほかの着ぐるみのひとから見たら、なんか変な存在だったかもしれないですね。

一つ目=「単眼」を始めたのは、当時一瞬、「単眼娘」がアニメ系で流行してたんですよ。でも、そういうのはぜんぶ2次元というか、アニメとかだったので、これなら着ぐるみにできるかなって、試してみたら最初からすごい反応で、いきなり「まとめサイト」が立ち上がっちゃったりした。

単眼を発表したのは2012年の、冬のワンフェスでコスプレとして参加したのが最初。ファッションは雑誌の『KERA』っぽい感じで、ちょっとファンシー寄り。それで2014年冬からブースを出すようになりました。
着ぐるみの被り物は基本オーダーメイドで、小沢さんの単眼少女も依頼主に合わせた手作り。8万7000円からと立派な値段だが、ふつう着ぐるみ工房に頼むと20万円近くしてしまうので、かなり破格のプライスでもある。そして小沢さんは彼女の単眼少女を、「ちもさん」と呼んでいる。

「小沢団子」という名前を使い始めたのは、もう中高生くらいからなんですが、小沢健二と団子が好きなもので・・・。それで「ちもさん」というのは、お餅が好きだから「ちも」でいいかなって。

着ぐるみは男性がほとんどですけど、「ちもさん」を買ってくれるのは、ほとんど女の子ばっかり。いままで着ぐるみをやったことがないひともたくさんいて、むしろコスプレの感覚なんですかね。ツイッターのフォロワーを見てても、着ぐるみファンやオタクと言うよりも、中高生のサブカル好き女子がけっこう多くて。なので着ぐるみ自体は買えなくても、グッズならいけるかなって、いろいろ作ってます。

「ちもさん」を見ると、男の人はけっこうぎょっとするらしいけど、女子の反応は圧倒的に「かわいい!」なんですよ。ま、怖いというようなひとは、最初からこっちには来ないと思うけど・・・・・・。でも、こちらとしては「ふつうの女の子で、たまたま眼がひとつ」という気持ちで作ってるし、その眼がちゃんと女の子してるから、女子にとっては「同じ種族」だと思われるんじゃないでしょうか。

むくつけき男が若い女の子に懸想して、それが仮装に結びついて・・・・・・という着ぐるみの展開は、ある意味すごくわかりやすいけれど、女子が女子に仮装するというのは、もう一段ヒネリが加わった、新たなステージなのかもしれない。女子が生み出す女子。そこに露骨な性欲というカセから自由になった、よりクリエイティブな造型が見つかるのかもしれない。

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